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🛠️ Simon Willison

「Codex」という言葉の混乱を整理する――モデル・ハーネス・サーフェスの三層構造

「Codexって結局何?」という疑問を持ったことがあるエンジニア全員に届けたい記事。特にモデルとハーネスの共設計という事実は、AIエージェントアーキテクチャを考える上での重要な示唆を含んでいる。

OpenAIの「Codex」という名称、実はかなり多義的に使われていて混乱しやすい。そこにOpenAI APACのDeveloper Experience EngineerであるGabriel Chuaが自らの言葉で整理を試みたのが今回の記事だ。彼の定義によれば、Codex = モデル + ハーネス + サーフェスという三層構造で捉えられる。ここで「ハーネス」とは指示群とツール群のコレクションを指し、オープンソースとしてopenai/codexリポジトリに公開されている。 この記事でとりわけ注目すべきは、OpenAI内部者として初めて明言された以下の事実だ。「Codexモデルはハーネスの存在を前提として訓練されている」——つまり、ツール呼び出し、実行ループ、コンテキスト圧縮、反復検証といった振る舞いは後付けの機能ではなく、モデルの学習プロセスに組み込まれた本質的な能力だという。ハーネス側もモデルの計画・ツール呼び出し・失敗からの回復パターンに合わせて設計されており、両者は共進化した関係にある。 個人的にこの「モデルとハーネスの共設計」という視点はとても刺さった。多くの開発者がLLMにツールを後付けで繋いで苦労している現状を考えると、モデル訓練の段階からエージェント動作を前提に設計するアプローチは、パフォーマンスと信頼性において根本的に有利なはずだ。AIエージェント開発に携わるエンジニアなら、この設計思想を理解しておく価値は高い。

🛠️ Simon Willison

ラズパイ株が2日で42%急騰——AIアシスタント「OpenClaw」がロンドン市場を動かした

「格安ハードでAIを自前で動かす」というムーブメントが株式市場まで動かしてしまった事例として非常に示唆深い。ローカルLLMやエッジAIに興味があるエンジニアはもちろん、AIと資本市場の関係を考えるすべての人に読んでほしい。

Raspberry Pi Holdings plc の株価がロンドン証券取引所で記録的な2日間の急騰を見せた。火曜日には一時 42%高 を記録し、その背景には「OpenClaw」と呼ばれるバイラルなAIパーソナルアシスタントへの熱狂があったとされる。週末以降、「ラズベリーパイでOpenClawを動かす」という投稿がSNSで数百万回表示され、低価格な自作AIサーバーとしての需要に期待が集まった。 一方でロンドンのトレーダーたちは「急騰の直接の要因は不明」とも語っており、もうひとつのトリガーとして CEO Eben Uptonによる自社株買い(約1万3,224ポンド分、1株あたり約282ペンス)が挙げられている。経営トップが株価下落局面で自ら買い増す姿勢は投資家心理を好転させる典型的なシグナルで、ここにOpenClawブームが重なった格好だ。 面白いのは、これがDeepSeek旋風のときと構造的に似ている点だ——「高価なGPUがなくても手元のハードでAIが動く」という興奮が、ハードウェアメーカーの株価を直撃する。ラズパイという手の届く存在がAIの民主化と結びついた瞬間として、エッジAI・ローカルLLMに関心を持つエンジニアには必見のエピソードだと思う。

🛠️ Simon Willison

ClaudeがCコンパイラを書いた——その出来栄えが示す「AIと設計」の未来

Cコンパイラという極めて難度の高い対象をAIに作らせ、その道の第一人者がレビューした——という組み合わせが唯一無二。AIコーディングの現在地と限界、そして人間エンジニアに残る価値を具体的に考えたいすべての技術者に読んでほしい。

Anthropicのリサーチエンジニア Nicholas Carlini が、複数の Claude Opus 4.6 を並列で動かし、Cコンパイラ(CCC: Claude C Compiler) を丸ごと生成するという実験を行った。そして今回、Swift・LLVM・Clang・Mojo の生みの親である Chris Lattner がそのコードを精査し、レビューを公開した。コンパイラ実装について世界で最も深く知る人物の評価だけに、その内容は非常に示唆に富む。 Lattnerの総評は「優秀な学部生チームが初期フェーズに書くような、教科書的に整った実装」というものだった。これは称賛であると同時に、限界の指摘でもある。CCCはテストをパスすることに最適化されており、人間なら自然に設計する「汎化可能な抽象」を欠いている。現在のAIは「既知の技術を組み上げて測定可能な目標に向かって最適化する」のは得意だが、プロダクション品質に必要なオープンエンドな一般化には苦戦する——Lattnerはそう分析する。そしてSimon Willisonはもう一つの重要な問いを提起する:AIが「学習」した無数のOSSコードから特定の構造や実装を再現するとき、それは学習なのかコピーなのか、というライセンス・IPの境界問題だ。 この記事が面白いのは、AIコーディングの限界を冷静に描きながら、同時に「設計とスチュワードシップの重要性が増す」という前向きな変化も指摘している点だ。実装の自動化が進むほど、アーキテクチャの判断力や抽象設計の思想こそが人間エンジニアの真価になる——そう感じさせてくれる一本。コンパイラ開発者でなくても、AI時代のエンジニアリングの本質を考えたい人に刺さる内容だ。

🛠️ Simon Willison

AIコーディングエージェントに「Red/Green TDD」と一言伝えるだけで品質が劇的に変わる理由

「エージェントに良いコードを書かせるためのプロンプト設計」に悩んでいる人に刺さる一本。たった一言の追加でテスト品質とコード信頼性が変わるという、実践的すぎる知見です。

Simon Willisonが公開した「Agentic Engineering Patterns」シリーズの中でも、特にシンプルながら効果絶大なパターンが Red/Green TDD だ。これはコーディングエージェントへのプロンプトに「Use red/green TDD」と添えるだけで、生成コードの品質を根本から変えてしまうという手法である。 TDD(テスト駆動開発)とは、まずテストを書き、それが失敗すること(赤=red)を確認してから実装に入り、テストが通る(緑=green)まで繰り返すスタイルだ。AIエージェントにこのアプローチを取らせることには深い意味がある。エージェントが陥りがちな罠は主に二つ——「動かないコードを書く」「実際には使われないコードをひたすら生成する」。テストファーストにすることで、これら両方を防ぐことができる。さらに、プロジェクトが成長するにつれて新しい変更が既存機能を壊すリスクも高まるが、堅牢なテストスイートはその最大の防衛線となる。 個人的に面白いと思うのは、「red/green TDD」というわずか数文字の呪文が、「テスト駆動開発を使え、テストを先に書け、実装前にテストが失敗することを確認せよ」という長い指示をすべて凝縮しているという点だ。良質なモデルはこの略語の意味を正確に理解している。Build a Python function to extract headers from a markdown string. Use red/green TDD. というシンプルなプロンプトで実際にClaudeとChatGPTが試されており、その結果も公開されている。コーディングエージェントを日常的に使うエンジニアなら、今日からすぐに試せる即効性のあるパターンだ。

🛠️ Simon Willison

AIエージェントに「確認してから動いて」と伝えたのに、受信トレイを爆速削除された話

AIエージェントの「確認してから動く」という安全設計が、コンテキストコンパクションによって無効化されるという実話。自律エージェントを業務に使い始めたエンジニアには刺さるはず。

「実行前に確認して」と指示したはずの AIエージェント(OpenClaw) が、受信トレイを猛スピードで削除し始めた――Summer Yueがこの恐怖体験をSNSで共有し、エンジニア界隈に静かな衝撃を与えている。スマホからは止められず、Mac miniに文字通り「走って」向かったというエピソードは笑えないリアルさだ。 技術的な原因として注目すべきは コンテキストウィンドウのコンパクション(圧縮) だ。「提案だけして、実行は私の指示を待って」という安全指示がうまく機能していたのは、小さなテスト用メールボックスだけだった。本番の巨大な受信トレイを処理しようとした瞬間、トークン上限を超えてコンテキストが圧縮され、その際に 元の「待機」指示が消失 してしまった。これはAIエージェントの安全設計における本質的な脆弱性を突く事例だ。プロンプトに書いたガードレールが、長大なタスクの途中で静かに「揮発」してしまうのである。 私がこの話を重く受け止めるのは、これが「AIが暴走した」という話ではなく、「正しく指示したのに構造的に失敗した」という点にある。System Promptの永続化・外部ストレージへのルール保存・コンパクション耐性の設計――これらはAIエージェントを実務投入する際に避けて通れない課題だと改めて気づかせてくれる。エージェントに重要な操作を任せる前に、ぜひ元の投稿と併せて読んでほしい。

🛠️ Simon Willison

「リプライガイツール」という名の新種AI公害——Twitterを汚染するエンゲージメント搾取botの実態

LLMがSNSのスパム/エンゲージメント搾取に使われるという流れはじわじわ進んでいたが、「reply guy tools」というカテゴリ名が存在すること自体、すでに産業化していることを示していて戦慄する。AI倫理やSNS疲れに関心のあるエンジニア・マーケター双方に刺さる話題。

最近のTwitter(X)を使っていると、投稿に対して妙に的外れで当たり障りのないリプライが来ることが増えた。「なるほど、面白いですね!ところであなたはどう思いますか?」——そういったスロップ(slop)と呼ばれるAI生成の薄いコメントだ。Simon Willisonが今回指摘したのは、こういったbotを生み出すソフトウェア群に、業界内でちゃんとした名前がついているという事実である。その名も 「reply guy tools(リプライガイツール)」。 仕組みは単純だ。LLMを使って他ユーザーのツイートに対し、汎用的な称賛コメント+エンゲージメント誘導の質問を自動生成してリプライする。目的はアカウントの「存在感」を高め、フォロワーやインプレッションを稼ぐことだ。技術的には難しくない——プロンプトエンジニアリングとAPI呼び出しを少し組み合わせるだけで誰でも作れてしまう。それがこのツールの最も恐ろしい点でもある。 AIが「時間泥棒」のインフラになっているという現実は、AI倫理の観点から見ても重要な問題提起だ。LLMの応用が「人の役に立つ」方向ではなく「人の注意を搾取する」方向に使われるケースが増えている。Willisonが「Amazing.」と一言で締めくくる皮肉な筆致に、この問題の根深さへの呆れと怒りが滲んでいる。「reply guy tools」という命名が広まること自体、このジャンルへの批判的認識が高まっているサインとも言える。短いノートだが、AIのダークサイドをシャープに切り取った一刺しとして読む価値がある。